アパート経営をしているオーナーは高齢であることも多いのですが、認知症や痴呆症になってしまった親が所有するアパートがある場合、子供としてアパート経営をどうすればよいのか悩むことも少なくありません。
どうするのが、一番なのでしょうか?
認知症や痴呆症には、軽度から重度までの段階がありますが、そのアパートの登記義務者である親御さんに意思能力がある場合は、親御さんとアパートの売買契約か、贈与契約を行いアパートの名義を転移しておくと安心です。
親子間で売買契約をすることに違和感があるかもしれませんが、売買契約による名義変更は税金が安く済みます。
しかし、親と子供の契約であっても、はっきり代金を支払っているという証明が必要です。
一方、贈与によってアパートの名義を変更する場合は、代金の支払いはありませんが、高額な贈与税が課せられます。
認知症や痴呆症の症状が進行していて、登記義務者の親御さんに意思能力がない場合、売買も贈与もできないため、名義変更ができません。
このため、裁判所に親御さんの成年後見の申し立てをして、その成年後見人が親御さんの代理で諸手続きを行うことになります(成人後見人が子供になることも多いです)。
このため、意思能力がないからと言って、親御さんに代わって子供がアパート経営にかかわる契約等の締結を勝手に行うことは違法になります。
子供や家族が意思能力のない親御さんに代わって、アパートの入居者と賃貸借契約をしたり、契約更新、契約解除、入居者の退出時の修繕などを行ったりしていることが実際には多く存在するかもしれませんが、厳密にいうと代わりに行った契約は全て無効となりますので、注意が必要です。
意思能力がない親御さんではアパート経営に関わる契約の締結ができないので、アパート経営が滞ってしまいます。
このため、できるだけ早く親御さんに代わっていろいろな手続きを行ってくれる成年後見人を申請する必要があります。
成年後見人は配偶者や子供などアパートの名義人の親族が、家庭裁判所に申し立てを行います。
その後、家庭裁判所の調査官によって現状の調査、審判、審判の告知、審判の通知を経て行われますが、通常、申し立てから法定後見の開始までの期間は2~5か月ほどかかります。
また、申請には親族関係図、財産目録、収支報告書などの書類が必要になります。
資産が多い親御さんの場合、成年後見人は弁護士や司法書士が選任されていることが多くなっています。
認知症などで意思疎通ができなくてもアパート経営を続行している場合、どうしても成年後見人が決まるまでにも、色々な契約の締結等が発生してしまいます。
成年後見人が決定するまでの期間、滞りなくアパート運営を続けるために、日本賃貸住宅協会では管理業務委任契約を締結することを勧めています。
これは、万が一、アパートのオーナーである親御さんが認知症や痴呆症になった場合、賃貸管理業者と代理権を授与した親族が名義人に代わって契約を行うことができます。
認知症になる前に親御さんが管理業務委任契約をしている場合は、成年後見人が選出されるまでの期間に代理人によって契約を締結することができますし、成年後見人が選出された後でも代理権はなくなりませんので同様に契約締結が可能です。
子供が親御さんの所有するアパートの相続予定者である場合は、贈与で名義変更するときに相続時精算課税の申し出を税務署にしておくと、実際は親御さんが存命なのでアパートの贈与という形式になりますが、現実に親御さんが亡くなって相続する時に、相続でそのアパートを得た場合と同じ税金で改めて精算することが可能です。
贈与税よりも相続税の方がかなり安いので、実際の相続前にもかかわらず名義変更もできて、安い税金で済むことを知っておくと良いでしょう。
認知症の親御さんに代わって、子供が勝手に親御さんの所有するアパートを売却することはできません。
認知症の親御さんに代わってアパートなどの不動産を売却する場合は、子供が成年後見人として家庭裁判所から選ばれている必要があります。
さらに、子供が成年後見人でも、すぐに親御さんのアパートを売却することはできません。
売却の際にも「居住用不動産処分許可」を家庭裁判所に申請し、許可が必要になります。
売却をする場合は、事前に売買契約の諸条件を全て取り決めてから申し立てを行い、その後、家庭裁判所の許可によって売却が成立します。
このように裁判所で売却許可を得ずに不動産売却が行われた場合、その契約は無効となり、許可決定の内容と異なる契約をした場合もその契約は無効になります。
不動産売買や賃貸契約は、法律など専門的なこともたくさんあるので、認知症になった親御さんの所有するアパート経営についての問題や売却を考える場合は複数の不動産会社に相談してみることをおすすめします。
複数の専門家に相談すると、経営を続ける場合でも売却する場合でも、より良い方法が見つかることでしょう。
(参考)
○登記 -成年後見登記-(法務省のサイト)